サムスン電子のビジネスモデル-完成品と部品、二つの入口で稼ぐ

サムスン電子のビジネスモデル-完成品と部品、二つの入口で稼ぐ

メーカー 監修:合同会社パンディング

サムスン電子は誰に売っている?

個人と企業の購入場面を描く

スマホ売り場でGalaxyを見かけると、サムスン電子はスマホを売る会社だと思いますよね。では、他社のスマホやAIサーバーが売れたときにも、商機があるとしたらどうでしょう。

サムスン電子は、完成品と部品、二つの入口で稼ぐ会社です。

定説の発想は、自社の完成品をもっと売り、売上を広げる方法を選びます。逆説の発想は、その中身を他社にも売り、他社の製品づくりも売上につなげることです。

この記事では、サムスン電子の仕組みを次の3つの視点で読み解きます。

  1. 売る相手:消費者と、製品をつくる企業がいる。
  2. 稼ぐ場所:完成品販売と、部品・製造受託がある。
  3. 成立条件:必要な性能を、量産と採算で支える。

公式の会社紹介では、完成品を扱うDX部門と、半導体を扱うDS部門を分けています。連結対象のディスプレイなども含めた、幅広い事業展開です。

同じ電子機器でも、買う理由と代金を払う相手が変わります。

個人が買うのは、使いやすい端末です。企業は、自社製品をつくるための部品や製造能力を買います。この違いが、ブランドの人気だけでは説明できない収益源を生む理由です。

次の図は、この記事を1枚にまとめたものです。上の3段で「登場人物と、提供・お金・情報のやり取り」を、下の「逆説の構造」で主張を示しています。
起点は売上を広げたいという課題、定説は自社製品を売る発想、逆説は他社製品の中身も供給する解き方です。続く本編では、予告した3つの視点から図を読み解きます。

  • 人:完成品を買う個人、部品や製造を発注する企業、供給するサムスン電子です。
  • 仕事・サービス・モノ:サムスン電子が完成品や半導体・ディスプレイを供給し、半導体の製造も受託します。
  • お金:サムスン電子が受け取るのは、個人の完成品代金と、企業の部品代金・製造委託料です。
  • 情報:発注企業が、製造受託に必要な設計・仕様をサムスン電子へ渡します。
サムスン電子の完成品販売と部品販売・製造受託、収益と情報のやり取り
ビジネスモデルの仕組みを整理した図解

Galaxyの顧客と部品の顧客

完成品と部品の購入理由の比較

完成品では使う人を、部品では製品をつくる企業を顧客にします。

DX部門は、スマホ、テレビ、冷蔵庫などを製造・販売します。個人にとっては、通信や映像、家事に使う道具です。購入を決めるときには、機能に加えて使い勝手や価格も比べるでしょう。

この売り方では、完成した商品の魅力が購入理由になります。新しい端末を選んでもらうには、買い替える理由を届ける必要があります。店頭で目にするサムスン電子は、こちらの顔です。

一方、DS部門にはメモリ、システムLSI、ファウンドリの事業があります。公式資料によると、担当するのは半導体の設計・製造・販売と製造受託です。部品を選ぶ企業は、完成品の宣伝とは違う条件で取引を判断します。

部品を買う理由

公式のDRAM紹介では、スマホやパソコン、AI用途などに合わせた製品を用意しています。DRAMは、処理中のデータを素早く扱うためのメモリです。同じメモリでも、搭載する機器によって求められる性能が違います。

企業が必要とするのは、自社の端末やサーバーを動かせる部品です。そのため私は、部品事業の営業は「名前を覚えてもらう」だけでは足りないと考えています。顧客の設計に合う性能と、必要な数量を供給する力が購入理由です。

完成品の競争と、部品の取引は、別の判断で動きます。

例えば、完成品メーカーが別の会社の端末と競っていても、部品は必要です。供給者には、顧客が自社製品を選ぶ以外の取引機会が生まれます。ここが、私がサムスン電子を見るうえで最初に押さえたい点です。

消費者向けの販促と、企業向けの技術提案を同じ説明で済ませると、相手の購入理由を外します。二つの顧客を持つことは、二つの提案の仕方を持つことでもあります。

部品と製造のどこで稼ぐ?

部品販売と製造受託の違い

自社で設計した部品を売る方法と、顧客の半導体を製造する方法があります。

メモリを販売する場合、顧客は必要な容量や性能の製品を選びます。サムスン電子が受け取るのは、供給した部品の代金です。スマホを完成させて個人に売る経路とは、売る単位も支払者も変わります。

ディスプレイも、完成品の中に入る商品の一つです。公式の決算説明では、Samsung Displayのスマホ向けに加え、IT・車載向けの販売に触れています。端末の表面にサムスンの名前が見えなくても、部品の供給先になり得ます。

製造能力を売る

ファウンドリは、顧客企業の半導体を製造する事業です。公式サイトでは、設計の初期段階から大量生産まで顧客を支援すると説明しています。顧客は設計・仕様を渡し、サムスン電子は製造を引き受けます。

ここでの対価は、製造の委託料です。完成した半導体も顧客へ引き渡されますが、取引の中心は、求められる半導体をつくる仕事を担うことです。図でも、部品販売とは分けて示しました。

製品を売るだけでなく、製品をつくれる能力も売っています。

この違いは、企画や営業の仕事にも使える視点です。私なら、完成した提案を納める仕事と、他社の企画を制作する仕事を分けて考えます。同じ専門性を使っていても、相手が買うものと責任の範囲が違うからです。

サムスン電子の2025年通期決算では、次の規模が示されています。

  • 連結売上高333.6兆ウォン:完成品や部品などを合わせた販売規模です。
  • 営業利益43.6兆ウォン:費用を差し引いた営業上の利益です。

この全社売上には、顧客に販売した収益がまとまっています。自社部門の間で部品を渡すことは、外部顧客がもう一度代金を払うこととは分けて考えます。二つの入口を見るときにも、同じ商品の取引を重ねて数えないことが大切です。

二つの入口が強みになる条件は?

部品高の供給側と完成品側への作用

部品を供給できる技術と量産力があってこそ、二つの入口が収益につながります。

半導体の公式サイトでは、用途ごとの製品に加えて製造技術を紹介しています。欲しい部品の種類が分かっても、それを必要な性能でつくれるかは別の問題です。供給の約束を守るには、開発と生産の両方が必要になります。

部品を外部に売る道があれば、自社の完成品以外の需要にも応えられます。私は、これを単に事業の数を増やす話とは捉えていません。自社で育てた専門性を、別の顧客が買える商品にする話だと考えています。

ただし、部品の販売価格や製造費用は業績に影響します。供給する側が大きく稼げる時期と、完成品を組み立てる側が利益を確保しやすい時期は、必ずしも一致しません。

部品高は両面に効く

2026年4〜6月期の公式決算では、DS部門がメモリ需要や価格上昇を背景に好業績となりました。同じ決算で、MX・ネットワーク事業は部品コストの上昇などから営業赤字となっています。供給側の追い風が、完成品側の負担にもなる具体例です。

二つの入口があることと、両方が常に儲かることは別の条件です。

売上を伸ばすときには、採算を保てるかも確かめます。高い技術を開発しても、生産費用が販売代金を上回れば利益は残りません。需要が変わったときには、どの製品をどれだけつくるかも判断し直す必要があります。

自分の仕事で他社向けの供給を増やすなら、先に確かめたいのは余力です。受注が増えた際に、自社の顧客への納品が遅れるなら、入口を増やす効果が小さくなります。広げ方を決める条件は、必要な品質と数量を守れる範囲です。

私は、サムスン電子から学ぶ点は「何でも内製すること」より、育てた能力の売り先を考えることだと思っています。外部の顧客が買う理由と、それを続けて供給できる条件がそろうほど、事業の選択肢は広がります。

あなたの仕事に置き換えると

採用支援への応用例を考察として描く

完成品を届ける力と、その中身を他社へ供給する力を、別々の売り物として考えます。

サムスン電子の売り物は、個人が使う商品と、企業向けの部品・製造能力です。私はこの関係から、普段の仕事の一部分にも、外部の顧客が買いたいものがあると考えています。

例えば、採用支援の会社なら、採用活動全体の支援と、求人原稿だけの制作を分けて考えられます。前者の顧客は一連の仕事を任せたい会社、後者の顧客は制作だけを補いたい会社です。相手の不足を埋める単位にすると、提案内容も変わります。

ただし、仕事を小さく分けるだけでは購入理由になりません。原稿制作なら、伝える内容を整理する力や、納期を守る力が必要です。独立した商品として引き受ける責任を決めてこそ、相手も頼みやすくなります。

自分の仕事に当てはめるために、次の3つの問いに答えてみてください。

  1. 今、顧客に何を納めていますか。回答例:採用サイト。
  2. その中で、他社にも売れそうな部分は何ですか。回答例:求人原稿。
  3. 追加受注でも守る条件は何ですか。回答例:納期。

最初に売るのは、繰り返し安定して提供できる部分です。

新しい売り先を思いついたら、誰が何に困っているかを確かめます。自社で役立った方法でも、その相手が欲しい内容と一致しているかは確認が必要です。完成品を買う顧客の希望と、一部分だけを頼む顧客の希望を分けて聞きます。

サムスン電子の規模をまねる必要はありません。今ある仕事のどの部分が、別の顧客の購入理由になるか。その問いからなら、身近な事業でも考え始められます。

あなたの仕事の「中身」を、次に必要とするのは誰ですか?

参考

対象はサムスン電子とその連結事業です。図は主要な収益経路に絞り、完成品は直接販売の場合を示しています。