
WordPressのビジネスモデル-無料の本体が、周辺サービスの市場を育てる
無料のWordPressで、誰が儲かる?

会社のサイトを作るとき、無料のWordPressを選んでも、サーバーや制作にはお金がかかります。
その代金は誰に入り、無料のソフトは誰が作り続けているのでしょうか。
WordPressは本体を無料で広め、運用や拡張への需要を周辺企業の売上につなげています。
事業の成り立ちを比較すると、定説の発想は、ソフトの利用権を売って事業を支えることです。
逆説の発想は、ソフトを共有し、それを使いこなすためのサービスを売ることです。
この記事では、WordPressの仕組みを次の3つの視点で読み解きます。
- 1. 普及の理由:使う自由と、作り足せる自由が広がる。
- 2. 収益の行き先:運用・拡張・決済の代金を各社が得る。
- 3. 開発の継続:個人と企業の貢献が、無料の本体を支える。
この記事の内容を、登場人物と、提供・お金・情報のやり取りから1枚にまとめました。
上の3段は関係者とやり取り、下の「逆説の構造」は起点=困りごと、定説=よくある発想、逆説=別の解き方です。
サービスの内容は矢印の言葉で読み、続く本編で3つの視点を順に掘り下げます。
- 人: 登場するのは、サイト運営者、開発参加者、Automatticや独立したサービス事業者です。
- 仕事・サービス・モノ: 開発参加者が本体を改良し、事業者がサイト運営者へ運用・拡張を提供します。
- お金: 有料サービスを選ぶサイト運営者が、契約した事業者へ料金を払います。
- 情報: 不具合の報告や改善提案の送り手はサイト運営者、受け手は開発参加者です。

なぜWordPressは広がったのか

無料で使えることに、他の人が改良して配れる自由が重なりました。
WordPress.orgの公式紹介によると、出発点は既存のブログソフト、b2/cafelogでした。
Matt MullenwegとMike Littleが、そのコードを引き継いで開発を始めました。
公開されたコードを別の開発へ受け継ぐ「フォーク」自体が、誕生を支えています。
公式の紹介とリリース履歴で、初期の変化を追えます。
- 2003年:WordPressが登場。既存のコードを土台に、開発を継続しました。
- 2004年:プラグインの仕組みを導入。本体の外から機能を追加しやすくなりました。
- 2005年:固定ページやテーマの仕組みを導入。ブログ以外のサイトにも用途が広がります。
本体のライセンスはGPLv2以降です。
公式が説明する自由には、用途を問わず使うこと、仕組みを調べて変えることが含まれます。
さらに、元のソフトや改変した版を再配布する自由もあります。
本体のライセンス料がかからず、設置先も選べることが、利用開始の負担を抑える理由です。
作る人も増える理由
テーマは見た目を、プラグインは機能を追加します。
WordPress.orgには、それらを探せる公式のディレクトリがあります。
問い合わせフォームやネットショップは、必要に応じて追加できる機能の例です。
ホスティングの公式文書には、WordPressの事前導入や導入支援を行う会社も紹介されています。
無料でも設置できなければ使い始められません。
こうしたサービスが、コードを公開するだけでは届かない利用者との接点になります。
制作会社にとって、本体と機能の組み合わせは、顧客ごとの仕事を受ける手段です。
開発会社は、多くのサイトで使える追加機能を商品にできます。
使う人が増えるほど作る相手が増え、選べる機能が増えるほど使う理由も増える。
私は、この相互作用が普及を支える大きな力だと考えています。
WordPressの代金はどこへ行く?

本体は共通でも、利用者が払う相手は、選んだサービスごとに異なります。
最初に、WordPressとWordPress.comを分けると分かりやすくなります。
WordPress.orgから入手するのは、自分で設置先を選べるソフトです。
WordPress.comは、そのソフトを使ったホスティング込みのサービスです。
WordPress.comはAutomatticが提供しています。
公式の料金案内では、無料から有料まで複数のプランを設けています。
有料プランの対価は、広告の非表示や追加機能などです。
利用者が買うのは、本体を動かす場所や、管理の手間を減らすサービスです。
サーバー設備、通信、バックアップ、問い合わせ対応には、継続して費用がかかります。
無料で配れるコードと、日々の運用を引き受ける仕事は、費用のかかり方が違います。
コードを共有する自由を守りながら、設置や保守の仕事に料金を付けられるのです。
運用・拡張・決済の収益
Automatticの公式紹介には、WordPress.comのほか、JetpackとWooCommerceも並びます。
課金対象を見比べると、焦点は本体の外で生まれる仕事や追加機能です。
- 運用支援:Jetpackは、バックアップや安全対策などを有料で提供します。
- 機能拡張:WooCommerceは基本機能が無料。追加したい拡張機能が購入の対象です。
- 決済:WooPaymentsは、処理した支払いから手数料を受け取ります。
独立した会社にとっても、同じ本体の周りが商売の場です。
たとえばYoastは、検索対策用プラグインに無料版と有料版を用意しています。
サーバー会社はホスティング料を、制作会社は構築や保守の代金を受け取ります。
周辺各社の売上の行き先は、それぞれの契約先です。
別の会社のサーバーを選んだ人まで、Automatticへ必ず利用料を払う仕組みではありません。
ネットショップの商品売上も、まずは店側の売上です。
決済サービスの収益になるのは、そのうち契約で定めた手数料です。
無料のWordPressを誰が支える?

本体の継続を支えるのは、個人の活動と、企業が提供する人手や資源です。
WordPress.orgは、世界の開発者などが協力してソフトを作るプロジェクトだと説明しています。
プログラムを書くほか、翻訳、文書作成、テスト、学習支援も必要です。
無料とは利用者に本体の代金を請求しないことであり、開発の労働が消えるわけではありません。
企業による支援の窓口の一つが、Five for the Futureです。
公式の説明では、企業が時間を提供したり、資源を支援したりして開発を支えます。
社員が開発に参加する時間の給与は、会社が負担する費用です。
共通の本体が改善すれば、自社のホスティングや追加機能を提供し続けやすくなります。
開発の動向を把握し、顧客の要望を伝える機会にもなります。
売上と貢献は別に確かめる
ここで区別したいのが、企業の商売と、共通の本体への貢献です。
WordPressの周辺で売上が生まれても、その全額が開発費に回るわけではありません。
売上の行き先と、開発への貢献を分けて見る必要があります。
WordPress Foundationは、商標の保護や教育活動などを支える非営利組織です。
寄付案内では、自由なソフトへのアクセスや教育プログラムなどを使途に挙げています。
Automatticのサービス売上、財団への寄付、企業の開発者支援は、異なる資金や人手の流れです。
また、公開されたコードを使う自由と、公式サービスや商標を使える条件も別です。
独自の事業を作れる一方、共有部分を誰が維持し、利用条件を誰が決めるかは残ります。
コードの公開だけで、すべての運営上の判断が自動的に解決するものではありません。
この方式には、運用や拡張を買いたい需要と、開発を続ける参加者の両方が必要です。
便利でも全員が自力で済ませれば、有料サービスの売上にはつながりません。
私は、無料化の強さを考える際には、広がった後に誰がどんな仕事を買うかまで見るべきだと思います。
あなたの仕事に置き換えると

WordPressから学べるのは、広く共有するものと、対価を受け取る仕事を組み合わせる発想です。
本体を共有すれば、利用者も他の事業者も参加できます。
そこに運用を任せたい人や、追加機能が必要な人がいれば、有料の仕事が生まれます。
共有するものを作る費用と、使った後の支援費用を、誰が負担するかまで考えることが大切です。
たとえば私が業務用のテンプレートを提供するなら、共通のひな形を無料で配る案を考えます。
個社に合わせた設定や移行支援を、有料の仕事にするためです。
その場合も、無料配布で増える問い合わせに対応できるか、先に見積もります。
自分の仕事に当てはめるために、次の3つの問いに答えてみてください。
1. 多くの人と共有できる基本部分は何ですか。
例は「毎月使う集計のひな形」です。
2. 使い始めた人が、お金を払って任せたい仕事は何ですか。
例は「自社データへの初期設定」です。
3. 共有する部分の改善を、誰が支えますか。
例は「有料支援を担当する自社チーム」です。
無料の利用者数だけを見ると、普及と収益の間にある仕事を見落とします。
基本部分を広めることが、どんな有料支援の需要につながるのか。
そこまで説明できると、無料にする範囲も決めやすくなります。
あなたの顧客は、何を自分で行い、何を任せたいでしょうか。
参考
いずれも2026年10月26日取得。定説と逆説は、収益の設計を比べるための分析です。
図は主要な関係を簡略化しています。企業別の売上構成比・利益率は本稿の調査では確認できていません。
- WordPress.org:About:誕生、開発参加者、GPLと四つの自由。
- WordPress.org:History:初期のリリースと追加機能。
- WordPress.org:License:本体のライセンス。
- WordPress.org:Features:テーマ・プラグインなど。
- WordPress公式文書:Hosting WordPress:導入・運用サービス。
- WordPress.com:.comと.orgの違い:ソフトとホスティングの区別。
- WordPress.com:料金:無料・有料プランと提供内容。
- Automattic:About Us:提供するサービス群。
- Jetpack:料金:運用支援の課金。
- WooCommerce:料金の仕組み:無料の基本機能と追加費用。
- WooPayments:手数料:決済ごとの料金。
- Yoast:SEO Premium:無料版と有料版。
- WordPress.org:Five for the Future:企業の時間・資源による貢献。
- WordPress Foundation:Donate:寄付の使途。
- WordPress Foundation:商標方針:コードの利用と商標利用の区別。
- WordPress開発者ハンドブック:Reporting Bugs:利用者から開発参加者への報告。
- Wikipedia:WordPress:本人指定の概要資料。本文の主要事実は上記の一次資料で確認。
