任天堂のビジネスモデル。ゲームの外で出会い、ゲームで好きになる

任天堂のビジネスモデル-ゲームの外で出会い、ゲームで好きになる仕組み

エンタメ・レジャー

ゲームを買う前から、関係は始まっている

導入。街の映画館の前で、20〜40代の男女が抽象的な冒険映画のポスターと星模様のグッズを眺め、興味を持って話している。ゲームを買う前の出会いを象徴。

最近はゲームを遊んでいなくても、マリオの映画やグッズを見かけることはあるでしょう。任天堂との出会いは、ゲーム売り場やゲーム画面の中だけに収まらなくなっています。

任天堂のビジネスモデルの強さは、ゲームの外で接点を広げ、ゲーム体験で愛着を深める関係をつくっていることにあります。 映画や商品で知った世界を、自分の操作で楽しめるゲームへつなぐ。そのつながりを、ハード・ソフト・サービスが支えます。

集客を考えると、広告を増やす、新規顧客向けの商品をつくる、といった施策に目が向きがちです。私は任天堂を見るとき、「どこで知ってもらうか」と「どこで好きになってもらうか」を分けて設計する視点が、仕事にも役立つと考えています。

この記事では、任天堂の仕組みを次の3つの視点で読み解きます。

  1. ゲームの外に、興味を持つ入口をつくる。
  2. ハードとソフトを組み合わせ、遊ぶ体験を届ける。
  3. 遊んだ後も、関係を続ける理由をつくる。

ここでいうIPは、キャラクターや作品世界などの知的財産です。任天堂が持つIPを、出会い・体験・継続という顧客との関係から見ていきます。

ゲームの外に、興味を持つ入口をつくる

視点1。映画を見終えた大人二人が明るいホワイエを出て、隣のゲーム体験コーナーに立ち寄り、スタッフから携帯ゲーム機を受け取る。外の入口から体験へ進む場面。

任天堂は経営方針説明会で、任天堂IPに触れる人口を広げることを掲げています。2023年の質疑応答でも、IPへの愛着を通じて、初めてゲーム専用機を手に取る人や、しばらくゲームから離れていた人との接点をつくる考えを説明しています。

映画を見に行く人と、ゲーム機を買う人では、行動を起こすきっかけが違います。友人との映画鑑賞、店頭でのグッズとの出会いなど、日常の中に入口があれば、ゲームの新作情報を普段追っていない人にも作品世界を届けられます。

私が面白いと感じるのは、同じ作品世界を、異なる楽しみ方で体験できる点です。映画では物語を見守り、ゲームでは自分で操作して進める。入口と体験の役割が違うからこそ、知った世界をもう少し楽しんでみたいという動機が生まれると考えられます。

知ってもらう場所と、価値を実感する場所をつなぐ

この構造を読み解くための「定説」は、ゲームを売るにはゲームの中で顧客を増やす、という発想です。対して「逆説」は、ゲームの外にも入口をつくり、そこで生まれた関心をゲーム体験へつなぐ、という発想です。

成立を支えるのは、接点をまたいで伝わるキャラクターや世界観と、ゲームでしか味わえない操作の楽しさです。同じものを何度も見せるだけでなく、それぞれの場で楽しむ理由を用意することで、次の体験を選びやすくなります。

仕事に置き換えるなら、専門サービスを売る会社でも、初めから詳しい商品説明を読んでもらう必要はありません。例えば日常の困りごとを短い記事で扱い、関心を持った人が体験会で解決方法を試せるようにする。記事と体験会が同じ課題を扱っていれば、入口で抱いた期待を実際の価値へつなげられます。

ただし、このつながりは設計と確認が必要です。記事の閲覧数に加えて、体験会へ進んだ理由や参加後の感想を確かめれば、関心を持った人に次の行動が合っていたかを判断できます。

ハードとソフトを組み合わせ、遊ぶ体験を届ける

視点2。リビングで大人3人が、テレビと携帯ゲーム機とコントローラーで一緒に遊ぶ。画面は抽象的な山・空・幾何学図形。道具とゲーム体験の組合せ。

入口を広げても、実際に遊んだ体験が期待に届くことが大切です。任天堂は2024年の経営方針説明会の質疑応答で、ハード・ソフト一体型の娯楽を提供する会社として、その魅力を伝えていくと説明しています。

ハードは、遊びを実現する道具です。ソフトは、その道具で何を楽しめるかを具体的にします。Nintendo Switch 2の公式サイトでも、テレビで遊ぶ、持ち運んで遊ぶといった本体の使い方と、ソフトを楽しむ場面があわせて紹介されています。

利用者から見ると、ゲーム機を買う理由は、そこで遊びたい作品や使いたい機能にあります。一方、ソフトを選ぶときには、手元にある本体や、一緒に遊ぶ相手、遊ぶ場所が条件になります。道具と内容を一緒に考えることで、利用者が楽しむ場面全体を設計しやすくなるのです。

お金の流れも、体験の役割ごとに見る

任天堂の主な収益源は、次のように整理できます。

  • 本体や周辺機器を購入する際の販売代金。
  • ゲームソフトや追加コンテンツを購入する際の代金。
  • Nintendo Switch Onlineのサービスを利用するための料金。
  • 映像コンテンツ、IPの利用許諾、公式ストアのグッズなどに関わる収入。

本体やパッケージソフトは販売店を通じた販売もあり、任天堂は取引先への販売で売上を得ます。ダウンロード販売など、利用者へ直接届ける経路もあります。受け取った売上で、本体の製造、ソフト開発、広告、サービス運営などの費用を賄います。

他社のソフトがダウンロード販売される場合は、2026年8月の決算説明資料によると、任天堂が契約に基づいて受け取る販売手数料を売上に計上します。ソフトメーカーは販売する機会を得て、利用者は選べる作品が増えます。

映画や施設についても、任天堂が受け取る映像関連収入や利用許諾の対価と、運営する各社が得る売上を分けて考えると、事業の役割が見えてきます。どの体験を自社で提供し、どこをパートナーと組むかで、届く相手も必要な費用も変わります。

私は、企画や営業でも「商品単体の機能」から「使って成果を得るまでの条件」へ視野を広げると、提案が具体的になると思っています。研修なら教材と演習の道具、業務支援ならサービスと利用開始時の案内を並べ、顧客が途中で困る場所を確認してみてください。

遊んだ後も、関係を続ける理由をつくる

視点3。大人女性が窓辺でヘッドホンとスマートフォンで音楽を聴き、机に携帯ゲーム機とゲームのケースがある。日常の中で遊んだ記憶を楽しむ場面。

一度買ってもらった後、次の商品を知らせる機会が来るまで関係が途切れると、顧客はその会社を思い出しにくくなります。任天堂の仕組みでは、遊ぶ楽しさに加えて、継続して触れるためのサービスや接点が用意されています。

Nintendo Switch Onlineには、対象ソフトのオンラインプレイやセーブデータお預かりなどのサービスがあります。2024年の質疑応答では、任天堂はこのサービスを、本体を手に取った顧客により楽しんでもらうものと説明しています。

加入者が利用できるNintendo Musicも、その一例です。ゲーム音楽をスマートフォンで聴くことで、遊んだ記憶に日常の中で触れられます。任天堂は、ゲームを再び手に取るきっかけや、加入を継続する理由になることへの期待を述べています。

継続する理由を、顧客が得る価値から考える

ここで注目したいのは、続けてもらう理由が「次も買ってください」という案内だけでなく、現在の楽しみを広げる価値として用意されている点です。遊んだ作品の記憶に触れる、友人と遊ぶなど、顧客側の目的と結び付いています。

ニンテンドーアカウントも関係をつなぐ基盤です。2026年8月の決算説明資料では、任天堂はアカウントを通じた継続的な顧客関係が、Nintendo SwitchからNintendo Switch 2への移行を支える土台になっていると説明しています。

ゲーム機の世代が変わっても、過去の体験を持つ顧客とつながれる。その意味で、商品を販売した回数に加えて、どのような楽しみや記憶が積み重なったかを見ることが、任天堂の構造を理解する助けになります。

自分の仕事に応用するなら、購入後の顧客が繰り返し必要とする情報を探してみてください。園芸用品なら季節ごとの手入れ、業務ソフトなら月末処理の使い方など、買った商品を役立てるための接点が考えられます。

接点を維持するには、内容を更新し、問い合わせに対応する手間もかかります。利用されている情報と継続する理由を確かめながら、顧客に役立つ範囲へ絞ることが必要です。私は、配信回数を増やす前に、購入後に実際に困っている場面を一つ見つけることから始めたいと思っています。

利用者と任天堂の購入代金・利用料と提供、IPパートナーとの利用許諾と対価、出会いからゲームへの接点を示す図解
ビジネスモデルの仕組みを整理した図解

出会い・体験・継続を、一枚の紙で見直す

結論。仕事の机で大人男女が一枚の大きな紙へ、映画のアイコン・ゲーム体験のアイコン・音楽のアイコンを描いた3枚のカードを並べ、ペンで関係を考える。顧客の出会い・体験・継続の見直し。

任天堂の仕組みをひとことで表すなら、「出会う場所を広げ、遊ぶ体験で、好きが続く関係をつくる」です。外の接点が関心を生み、ハードとソフトが体験を届け、その後のサービスが楽しむ理由を増やします。

この関係を自分の事業で考えるなら、一枚の紙に次の3つを書き出してみてください。

  1. 出会い:まだ商品を探していない人が、困りごとや楽しみを通じて接する場所はどこか。
  2. 体験:入口で抱いた期待を、どの場面で具体的に実感してもらえるか。
  3. 継続:購入後、その商品をもっと役立てるために必要な情報やサービスは何か。

書き出したら、出会いから体験へ進むところで、顧客に何をしてもらう必要があるか確認します。予約が難しい、内容が想像できないなどの問題が見つかれば、まずその一か所を改善する。それだけでも、別々に行っていた施策のつながりを見直せます。

任天堂の規模やIPそのものを真似することより、顧客が出会ってから価値を実感し、また使うまでの流れを描くことに、仕事へ持ち帰れるヒントがあると考えています。

あなたの商品では、知ってもらう場所と、好きになってもらう体験が、どのようにつながっていますか?

参考

定説と逆説の対比、接点から体験への解釈、仕事への応用は私の考察です。図解は主要な関係をまとめ、販売店や個別の契約条件を省略しています。