
富士フイルムのビジネスモデル-写真で培った技術を、別の市場の売上に変える
富士フイルムは、何を売る会社なのか?

主力商品の需要が減ったら、次に何を売ればよいのでしょうか。富士フイルムは、写真を支えた技術からも答えを探しました。
富士フイルムの強さは、写真で培った技術を、別の市場の売上に変えることです。
定説の発想では、写真製品の販売を伸ばして収益を守ります。逆説の発想は、その技術を別市場の顧客へ届け、収益の入口を増やすことです。
この記事では、富士フイルムの仕組みを次の3つの視点で読み解きます。
- 技術の転用:写真づくりの能力を別の用途へ広げる
- 対価の違い:材料の販売と医薬品の製造受託で稼ぐ
- 投資の組合せ:写真の稼ぎと新事業の費用を見比べる
対象は、富士フイルムホールディングスを中心とするグループ全体です。医療、電子材料、オフィス関連、写真・カメラなどを展開しています。
注目したいのは、新しい顧客が何に代金を払うかです。
下の図は、登場人物と、提供・お金・情報のやり取りを1枚にまとめたものです。上の3段には代表的な法人取引を、下の「逆説の構造」には記事の主張を置きました。
起点は困りごと、定説はよくある発想、逆説は別の解き方です。続く本編では、先ほどの3つの視点から図を説明します。
- 人:半導体メーカーと製薬会社が顧客・支払者、富士フイルムグループが供給・受託の担当です。
- 仕事・サービス・モノ:グループから半導体メーカーへの材料供給と、製薬会社向けの開発・製造受託です。
- お金:半導体メーカーは材料代を、製薬会社は開発・製造の受託料をグループへ支払います。
- 情報:半導体メーカーからの注文と、製薬会社からの委託条件という連絡です。

写真の技術は、半導体で何になる?

写真フィルムをつくる能力は、別の製品づくりにも使えます。
公式の技術紹介では、写真を撮影、記録、現像、プリントまでの工程で捉えています。その過程で、材料、光学、画像処理などの技術を蓄積してきました。
フィルムは、薄い材料の上に複数の機能を重ねてつくります。粒子を扱う、薄く均一に塗る、品質を確かめるといった作業が必要です。完成品だけを見ると、こうした能力は表に出てきません。
公式の高機能材料紹介では、精密塗布や製膜などの写真以外への応用が紹介されています。その用途の一つが、ディスプレイや半導体の材料です。
製品名から作業へ分解する
半導体材料の事業ページには、回路形成、研磨、洗浄などの工程別に製品が並びます。顧客は、半導体をつくるメーカーです。購入するのは、自社の製造工程で使う材料になります。
たとえば、研磨用の材料にはCMPスラリーがあります。微細な回路をつくる工程では、わずかな不純物も品質に影響するため、材料の性能と安定供給が大切です。
私は、この転換の鍵は製品の名前より、つくる作業に目を向けることだと考えています。写真フィルムという名前のままでは、半導体メーカーへの提案は想像しにくいでしょう。
材料の設計、精密な加工、品質管理まで分けると、別の顧客の課題と結び付けられます。顧客に必要な性能まで磨き直し、供給できて初めて売上になるのです。
材料販売と製造受託は、何が違う?

富士フイルムは、製品の販売に加え、顧客の開発・製造を引き受けて対価を得ます。
半導体材料の対価は、メーカーが購入する材料の代金です。一方、バイオCDMOでは、製薬会社などが医薬品の開発・製造を委託します。CDMOは、開発と製造を受託する事業者を指す言葉です。
公式の事業紹介によると、バイオ医薬品の生産には高度な技術と設備が必要です。富士フイルムは、培養から抽出、精製までの知識を持つグループ会社を中核にしています。
同じページで紹介されているのが、写真フィルムで培った一定条件製造技術や品質管理技術です。一定の条件を保ち、同じ品質の製品をつくり続ける能力が、別の分野でも働きます。
写真の技術に、専門能力を足す
公式の歴史資料では、米国メルクから製造受託会社を買収し、バイオCDMOへ本格参入しています。写真の技術に、医薬品特有の生産技術や設備、経験を組み合わせてきたのです。
対価を受け取る理由は、提供するものによって変わります。
- 材料販売:半導体メーカーから、製造に使う材料の代金を受け取る
- 開発・製造受託:製薬会社などから、委託された業務の対価を受け取る
- 写真製品:カメラやフィルムなどを販売し、製品代金を受け取る
受け取った代金で、研究開発、人員、原材料、設備などの費用を賄います。受託事業で必要なのは、顧客の要求に応える技術と、安定して稼働する工場です。
技術の転用と、足りない専門能力の獲得をセットで考えることが大切です。
似た技術があるだけでは、顧客の仕事を引き受ける準備は整いません。
チェキの稼ぎは、投資をどう支える?

写真関連事業の稼ぎと、新分野で先行する費用を組み合わせる点も重要です。
公式資料では、イメージングを資金創出力のある事業と位置付けています。ヘルスケアとエレクトロニクスを中心に投資する方針です。
写真分野でも、顧客へ届ける体験は変わっています。チェキには、スマートフォンの写真をフィルムへ出力するプリンターがあります。デジタルで撮った写真を、その場で渡せる一枚に変える製品です。
カメラやプリンターに加え、写真を出力するときに使うフィルムも商品です。私は、撮影機器と消耗品の両方に販売機会を持つ点が、写真事業を考えるうえで大切だと思っています。
成長分野でも費用は先に出る
直近の第1四半期決算短信で、事業ごとの差を確かめてみます。対象は2027年3月期第1四半期、2026年4〜6月の実績です。以下は資料の億円表示に従います。
- イメージングの営業利益434億円:写真・カメラ関連が利益を生んでいる
- エレクトロニクスの営業利益311億円:材料事業なども利益の柱になっている
- ヘルスケアの営業損失127億円:売上が増えても、利益が出るとは限らない
決算説明では、バイオCDMOの新規大型設備に伴う費用先行などを挙げています。顧客ごとの製造工程の移管や、設備を使いこなすまでの時間も課題です。
新市場に入ると、研究や設備の費用が売上より先に出る場合があります。
投資先の需要と、工場の稼働を両方確かめることが欠かせません。
また、オフィス関連を担うビジネスイノベーションでは、分離・独立を含む選択肢の検討を公表しています。実施は未決定です。事業の組合せも、見直しを続ける対象になっています。
あなたの仕事に置き換えると

富士フイルムは、蓄積した技術に必要な能力を足し、別市場で売れる提供物へ育てています。
私がこの事例から持ち帰りたいのは、「得意なこと」と「買ってもらえるもの」の間を具体化する視点です。技術の名前だけでは、顧客は依頼する仕事を決められません。
たとえば営業資料の制作が得意なら、文章の整理、比較の設計、図での説明へ分けられます。採用担当者が応募者へ仕事内容を説明する場面にも、使える能力があるかもしれません。
これは私の応用例です。既存の経験を足掛かりにしながら、新しい相手の要求と、追加で必要な知識を確かめます。
自分の仕事に当てはめるために、次の3つの問いに答えてみてください。
- 今の仕事で、繰り返し磨いている作業は何ですか。例:複雑な話を図で説明する。
- その作業で助かる別の相手は誰ですか。例:仕事内容を伝えたい採用担当者。
- 代金を払える提供物にするには、何が足りませんか。例:採用現場の知識。
答えが見つかったら、最初の顧客候補が求める成果を一つ確かめるとよいと思います。次に考えるのは、どこまで引き受け、何に対して代金を受け取るかです。
新しい市場を探すときも、これまでの経験は出発点になります。顧客の要求に合わせて学び直す時間と費用まで含めて、試す対象を選びたいところです。
あなたが今の仕事で磨いた作業を、次に必要とするのは誰でしょうか?
参考
取得日はすべて2026年10月19日です。本文の定説と逆説は、同社の事業を読み解くための私の比較です。図解は半導体材料とバイオCDMOの代表的な法人取引を抜粋しています。
